管理基準値

漁業管理の成功を測る指標

Tuna StrategiesChristine Olson(クリスティーン・オルソン)

Reference points are the benchmarks that scientists and managers use to compare the current status of a stock or fishery to a desirable (or undesirable) state.

概要

漁業管理者は、漁業と資源の健全性を確保する責任を有している。では、どのように健全性を定義し、漁業管理の成功度を測ればよいのだろうか。これには最大持続生産量(BMSY)をもたらすために必要な資源量など、生物学的管理基準値が用いられている。科学者は50年以上にわたり資源状態の評価に管理基準値を用いており、現在これがより幅広く用いられている。実際、現代の漁業管理において、管理基準値は最も普及している効果的な指標の1つとなっている。

管理基準値は漁獲戦略の他の要素とも密接に関連するため、その設定は漁獲戦略の策定に欠かすことができない。管理基準値は、科学者と管理者が現在の資源状況を望ましい(または望ましくない)状態と比較するための指標である。したがって、漁獲戦略が成功したかどうかを判定する際にも有益である。管理目標が明確な漁業では、目標達成に向けた進捗評価に管理基準値を用いることができる。場合によっては、管理基準値が漁獲戦略プロセスの開始時点で設定され、事実上の管理目標の役割を果たす。

管理者は、科学的知見に基づいて管理基準値を選ぶ必要がある。理想的には、管理戦略評価(Management Strategy Evaluation: MSE)分析に基づき、管理基準値の候補のうちのどれが漁獲戦略において有益かを評価すべ きであろうMSEにおける管理目標には互いに相対立するものがあり、管理基準値にこうした相対立する管理目標 の全てを反映させることはできないこともあるが、漁獲管漁獲管理ルール(harvest control rule: HCR)策定の指針 として用いることが可能である。HCRは漁獲戦略を構成する一要素であるが、管理基準値はHCRによる管理措置 を実行する際の具体的な基準点となるからである。

限界管理基準値、目標管理基準値、トリガー管理基準値

漁業管理では、限界管理基準値(limit reference point: LRP。またはBlimおよびFlim)、目標管理基準値(target reference point: TRP、またはBTARGETおよびFTARGET)、トリガー管理基準値(trigger reference point)という3種類の主 な管理基準値がある。

限界管理基準値は、これを下回ればその漁業はもはや持続可能ではない危険水域を定義するものである。適切に管理された漁業では、高確率でこの危険域に陥ることが回避され、たとえ基準値を下回ってしまった場合 でも、資源量や漁獲圧を目標レベルまで戻す措置が直ちに実施される。重要なのは、LRPは対象魚種の生態と漁獲圧からの回復力にのみ基づいて設定されなければならないということである。LRPは、生物学的観点からの脅威によって資源量が達してはならない値を定義するものであるため、経済的要因を考慮してはならない。例えば、限界管理基準値は、加入乱獲(成魚が著しく乱獲され十分な繁殖を行うことができず、資源回復が期待できない状態)という望ましくない状態を避けるために設定することができる。

目標管理基準値は、理想的な漁獲状態を定義するものである。適切に管理された漁業では、管理措置は高い 確率で継続的にこの状態を達成するように実施される必要がある。資源評価及び漁獲管理一般における不確 実性を鑑みた場合、TRPの利点の一つは、TRP設定によって十分なバッファーゾーンが確保され、資源が限界管 理基準値を下回らないようにすることに資する点である。資源は自然の変動と不確実性に伴い目標管理基準 値付近で変動し得ようが、目標管理基準値から恒常的に下回るようなことがあってはならない(例えば、資源量 に関する目標管理基準値を常に下回っていたり、漁獲死亡率に関する目標管理基準値を常に上回っていたり してはならない)。1 限界管理基準値の設定とは異なり、管理者と科学者は環境的、社会的、経済的、生物学的観 点に基づいてTRPを設定することができる。

一部の漁業では、トリガー管理基準値も設定されている。これは、追加的な管理措置を促進するため、一般的にTRPとLRPの間に設定され、資源を目標管理基準値近辺に維持したり、限界管理基準値を下回らないようにすることに資する。漁業管理において、トリガー管理基準値とそれに伴う管理措置を指定するHCRを正式に採用する動きが高まっている。漁業資源管理で用いられているルールでは、現在の推定資源状態に関連して漁獲制限を調整しているものがある。これは事実上トリガー管理基準値を設定して漁獲調整を行っていることに当たる。例えばある漁獲管理ルールでは、資源状態がTRPから乖離してLRPの方へ近づいてゆくと、これに伴い許容可能な漁獲死亡を連続的に減少させるというルールを採用している。とは言え、LRPとTRPが管理措置の唯一のトリガーとなっている場合もある。

重要なことは、目標管理基準値も限界管理基準値も、不確実性が高くなればなるほど慎重に設定する必要があるということである。不確実性が高い場合やモニタリングシステムでカバーされている範囲が限られている場合は、バッファーを大きくして限界基準値を下回るリスクを低減するため、LRPとの間をさらに広げてTRPを設定する必要がある。

管理基準値の選択: MSYベースのものと、それ以外のもの

一般的に、TRPとLRPは、漁獲死亡率(fishing mortality)ベース(Fベース)のものと資源量(biomass)ベース (Bベース)のものの2つのカテゴリーに分類される。何十年にもわたり、管理基準値は最大持続生産量(MSY) をベースとしてきた。MSYは、現在の環境条件下で継続的に漁獲可能な最大平均漁獲量として定義される。 これに関連する基準値は2つある。FMSYは最大の平均的生産量(MSY)をもたらす漁獲死亡率である。BMSYは MSYを達成するときの平均資源量である。

目標管理基準値と限界管理基準値を設定するとき、FベースとBベースの管理基準値のどちらを使用するか (あるいは両方使用するか)を決めるのは、管理者が直面する重要な問題の1つである。多くの場合、答えは 「両方使用する」である。なぜなら、(漁獲率)は直接管理できるが、 F B(資源量)は生態学的観点から管理する 上での重要なポイントであるからである。2 Bベースの基準値は、管理者と関係当事者にとって理解がしやすい。 通常、資源量(biomass)は海中の魚の量に物理的に関連する絶対量として表されるが、Fベースは死亡率なの で実体的でなく、したがって直接観察できないからである。

MSYは基準値として適切な指標である場合が多いが、頑健(robust)な資源量推定が不可能であったり、管理目標がMSYに関連していない場合は、MSYを用いるべきではない場合もある。その場合、他の多くの候補となるものから管理基準値を選ぶことになるが、それぞれの基準値の候補には長所と短所がある(表1を参照)。

多くの管理基準値は資源評価の結果から算出されるが、単位努力量あたり漁獲量(CPUE)に関するものなど、経験的かつデータをベースとした、直接測定が可能な管理基準値を設定することも可能である。

目標および限界管理基準値の策定と利用に関する指針は、「国連公海漁業協定(UNFSA)」および国連食糧農業機関の「責任ある漁業のための行動規範」に規定されている(下記参照)。海洋管理協議会(MSC)も、持続可能な水産物として認証されるために目標および限界管理基準値を設定しなければならないと漁業者に求めている。こうした指針を参考に、漁業では数多くの候補から管理基準値を選択することができる。

国連公海漁業協定における管理基準値に関する主要原則

  • LRPは「生物学的に安全な範囲内に採捕を抑制」するものである。LRPを下回るリスクは 「極めて低く」なければならない。「資源がLRPを下回る場合又は下回る危険がある場合 には、資源の回復を促進するために保存及び管理のための措置が開始されるべきである」
  • TRPが「平均して」達成されるように、管理体制を構築する。
  • 「最大持続生産量を実現する漁獲死亡率は、限界管理基準値に関する最低限度の基準とみなされるべきである」

MSY:それは目標値か、それとも限界値か?

最大持続生産量(MSY)の概念は1930年代に生まれ、1950年代には漁業で主流となった。ところが、わずか数 十年足らずでMSYベースの管理のマイナスの側面が明らかとなった。MSYの管理が持続不可能な漁業をもた らし、最適な資源利用とはならないことが指摘されるようになったからである。3 水産学者のRay Hilborn(レイ・ ヒルボーン)が2007年に著した論文の中で述べているように、「生産量と雇用を最大限にするという従来の漁 業管理目標は、深刻な乱獲につながる」のである。4

定義上、MSYは平均値なので、年によっては50パーセントの確率でその値を超えている可能性がある。50パー セントの確率は、BMSY およびFMSY の両方に当てはまる。つまり、FMSY 水準での漁獲では、資源がBMSY以上に保たれ る確率は五分五分であるに過ぎず、BMSY を下回って持続不可能になり得ることが分かったのである。5 この結果、 資源が枯渇し、遺伝的多様性が失われて繁殖成功率が低下する可能性が生じる。従来の漁業管理体制ではよ り高齢で繁殖力の高い個体が捕り尽くされてしまう可能性があるからである。6

このことから、「基準値がMSY(またはそれに準ずる指標)に基づく場合、MSY水準は目標値にすべきか、それとも限界値にすべきか」という問題が生じる。

一部の漁業専門家は、予防的アプローチ、国連公海漁業協定、及びその他の国際合意に基づき、少なくとも漁 獲死亡率については目標値ではなく、限界値として用いることを推奨している。7 MSYを目標値と用いた漁業資 源管理のなかには、経済的に最適な利用をもたらさない場合があることが明らかとなっている。またMSYが漁 業管理のツールとして用いられて続けている唯一の理由は、それが目標値としてではなく最低限の値として使 われるようになったからである、とAndre Punt(アンドレ・パント)とAnthony Smith(アンソニー・スミス)は2001 年に発表した論文で指摘している。8 以上から鑑みた場合、MSYは限界値として用いるべきということになろう。

資源量をBMSY を上回るように管理すると、漁獲量の増加、漁獲水準の安定、経済的利益の増加、環境への悪影 響の低減につながることが明らかとなってきている。このことは、資源がBMSY を下回らないようにすべきである ことを示している。10 例えば、0.75*FMSY の水準で漁獲すると、比較的小規模の漁獲抑制(MSYの94%以上)と引 き換えに資源量が大きくなることが明らかとなっている(BMSY の125%-131%)。11 同様に、Hilborn(ヒルボーン)の 2009年の論文では、MSYではなく0.8*FMSY からFMSYまでと定義される「極めて良好な漁獲量」、及び50%*B0 と いう目標値を採用した場合、予想される漁獲量の減少は少ないと論じられている。12 BMSYよりも高い目標値は、 資源にとっても良いだけではなく、漁業コストを下げて安定性を高めることで漁業にも貢献する。

とはいえ、漁業における従来型の管理目標では、MSYを限界値として用いるのではなく、MSYを目標値としてい るものが多い。従来型アプローチの支持者は、資源評価には不確実性が伴っているのでMSYベースのLRPは合 理的でなく、 FMSY 水準での漁獲はLRPの定義から派生するような深刻あるいは不可逆的影響を資源に与えるこ とはないと主張している。13

MSYプロキシ

表1に記載されている代替基準値の多くは、MSYベースの基準値と比較できる。したがって、MSYベースの基準 値が望ましいが自信を持って推定できない場合、MSY基準値に準ずる指標(MSYプロキシ)として使用されるこ とがある。

BMSY に準ずる指標として、漁業管理者および科学者は、初期資源量(B0)に基づく基準値を使用することがで きる。BMSY に準ずる指標の推奨値はB0 の30%14 ~60%で、最もよく使用されるのは40%*B0 である。15 科学者は、 回復力の低い種には値を高く設定することを推奨している。

FMSY に準ずる指標として、管理者と科学者は、産卵ポテンシャルに基づく基準値を使用することが多い。推奨範 囲はF30% -F 50% で、回復力の低い種の場合は値をさらに高く設定する。16回復力が平均的な資源の場合、Wendy Gabriel(ウェンディ・ガブリエル)とPamela Mace(パメラ・メイス)17 はF40% を推奨しているが、Keith Sainsbury (キース・セインズブリー)18 はF50% を推奨している。

その他のFMSYに準ずる指標には、F0.1 、自然死亡率の50%(50%M)、およびFMAX がある。ただし、FMAX はFMSY を過大 評価することが多いため、リスクが高い。例えば、F0.1は、東大西洋のクロマグロ資源のFMSY のプロキシの基準値と して、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の科学者によって使用されている。FMSY のプロキシとしてはF0.1 が最良であるが、F40% も頑健(robust)であるとの分析も得られている。19 F30% およびFMAX は、バイアスが大きく 精度が低いため、ICCATの科学者はこれを適切なプロキシとみなしていない。

まとめ

持続性と高い利益をもたらす漁業を将来にわたり確かなものとするには、頑健かつリスク回避型の目標および限界管理基準値を選ぶことが肝要である。一言で言えば、TRPは漁業の経済状態を保護し、LRPは資源の生物学的状態を保護する。TRPを達成できない場合、多くの場合漁業者と消費者の利益が中期的に減少することになる。他方、LRPを下回った場合、資源の減少、資源崩壊、生態系の不安定化、漁獲量の減少等に起因する長期的な利益の損失という、より深刻な結果を招来する。ゆえに、漁獲戦略を選ぶにあたりMSEを使用して漁獲戦略を選択し、管理基準値やこれに関する漁獲管理ルールが限界管理基準値を下回らないようにすることを含め、当該漁業の管理目標に最も適したものとなるよう設計することが重要となるのである。

  1. Victor R. Restrepo et al., Technical Guidance on the Use of Precautionary Approaches to Implementing National Standard 1 of the MagnusonStevens Fishery Conservation and Management Act, NOAA Technical Memorandum NMFS-F/SPO-31, National Marine Fisheries Service (1998), http://www.nmfs.noaa.gov/sfa/NSGtkgd.pdf.
  2. Keith Sainsbury, Best Practice Reference Points for Australian Fisheries, Australian Fisheries Management Authority (2008), http://www.afma.gov.au/wp-content/uploads/2010/06/R2001-0999.pdf.
  3. Peter A. Larkin, “An Epitaph for the Concept of Maximum Sustainable Yield,” Transactions of the American Fisheries Society 106 (1977): 1–11, doi: 10.1577/1548-8659(1977)106<1:AEFTCO>2.0.CO;2.
  4. Ray Hilborn, “Defining Success in Fisheries and Conflicts in Objectives,” Marine Policy 31 (2007): 153–58, doi:10.1016/j. marpol.2006.05.014.
  5. Victor R. Restrepo, “Red, Green and Yellow: Thoughts on Stock Status and the ICCAT Convention Objectives,” ICCAT Collective Volume of Scientific Papers 64 (2009): 2663–73, http://www.iccat.int/Documents/Meetings/Docs/SCRS/SCRS-08-172%20Restrepo.pdf.
  6. Sainsbury, Best Practice Reference Points.
  7. David J. Die and John F. Caddy, “Sustainable Yield Indicators From Biomass: Are There Appropriate Reference Points for Use in Tropical Fisheries?” Fisheries Research 32 (1997): 69–79, doi:10.1016/S0165-7836(97)00029-5; Wendy L. Gabriel and Pamela M. Mace, “A Review of Biological Reference Points in the Context of the Precautionary Approach,” Proceedings, 5th NMFS NSAW, NOAA Technical Memorandum NMFS-F/SPO-40(1999), https://www.st.nmfs.noaa.gov/Assets/stock/documents/workshops/nsaw_5/gabriel_.pdf; Andre E. Punt and Anthony D.M. Smith, “The Gospel of Maximum Sustainable Yield in Fisheries Management: Birth, Crucifixion and Reincarnation,” in Conservation of Exploited Species, ed. John D. Reynolds et al.(New York: Cambridge University Press, 2001); Sainsbury, Best Practice Reference Points; and Davies and Basson, Approaches for Identification of Appropriate Reference Points.
  8. Andrew A. Rosenberg and Victor R. Restrepo, Precautionary Management Reference Points and Management Strategies, Food and Agriculture Organization (1994), http://www.fao.org/docrep/003/w1238E/W1238E06.htm; and Punt andSmith, “The Gospel of Maximum Sustainable Yield in Fisheries Management.”
  9. Also reviewed in International Scientific Committee for Tuna and Tuna-like Species in the North Pacific Ocean, Pacific Bluefin Tuna Working Group, Report of the Pacific Bluefin Tuna Working Group Workshop(2010), https://swfsc.noaa.gov/publications/FED/01046.pdf.
  10. Pilling et al., Consideration of Target Reference Points.
  11. Restrepo et al., Technical Guidance.
  12. Ray Hilborn, “Pretty Good Yield and Exploited Fishes,” Marine Policy 34 (2010): 193–96, doi:10.1016/j.marpol.2009.04.013.
  13. Maunder and Deriso, Reference Points and Harvest Rate Control Rules.
  14. Pilling et al., Consideration of Target Reference Points.
  15. Michael C. Melnychuk, Jeannette A. Banobi, and Ray Hilborn, “Effects of Management Tactics on Meeting Conservation Objectives for Western North American Groundfish Fisheries,” PLoS ONE 8 (2013): e56684, doi:10.1371/journal.pone.0056684; Restrepo et al., Technical Guidance; and Keith J. Sainsbury, Andre E. Punt, and Anthony D.M. Smith, “Design of Operational Management Strategies for Achieving Fishery Ecosystem Objectives,” ICES Journal of Marine Science 57 (2000): 731 -41, http://dx.doi.org/10.1006/jmsc.2000.0737.
  16. Gabriel and Mace, “A Review of Biological Reference Points”; and Restrepo et al., Technical Guidance.
  17. Gabriel and Mace, “A Review of Biological Reference Points.”
  18. Sainsbury, Best Practice Reference Points.
  19. Kell and Fromentin, “Evaluation of the Robustness of Maximum Sustainable Yield Based.”
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